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高松地方裁判所 昭和61年(行ウ)2号 判決 1987年5月12日

高松市瓦町2丁目8番地の1

原告

有限会社不二書店

右代表者代表取締役

秋山義春

高松市天神前2番10号

被告

高松税務署長 三宅一夫

右指定代理人

武田正彦

外5名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和59年11月28日付で原告の昭和56年4月1日から昭和57年3月31日までの事業年度(以下「昭和56年度」という。)の法人税についてした更正のうち所得金額1万9,627円,納付すべき税額5,700円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

2  被告が昭和59年11月28日付で原告の昭和57年4月1日から昭和58年3月31日までの事業年度(以下「昭和57年度」という。)の法人税についてした更正のうち所得金額5万1,200円,納付すべき税額1万5,300円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (本件処分の経緯等)

原告の昭和56年度及び昭和57年度(以下「本件各年度」ということがある。)の法人税について,原告のした確定申告,これに対して被告のした更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下,右各更正を「本件各更正」と,右各過少申告加算税の賦課決定を「本件各決定」という。)並びに異議申立てとこれに対する決定及び審査請求とこれに対する裁決の経緯は,別表1記載のとおりである。

2  (本件処分の違法事由)

しかしながら,

(一) 本件各更正のうち,右確定申告に係る所得金額を超える部分は,いずれも原告の所得金額を過大に認定したものであるから違法である。

(二) 本件各決定は,所得を過大認定した本件各更正を前提とする点において違法である。

よって,原告は,本件各更正のうち右各所得金額を超える部分及び本件各決定の取り消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の主張は争う。

三  被告の主張

1  昭和56年度において,原告は,代表取締役名渕政雄,取締役秋山義春及び監査役貴田実(以下「本件役員」という。)に対し,別表2記載のとおり,毎月,固定給店番及び売上手当等を支給するほか,8月・12月の盆・暮に夏季手当・年末手当合計金64万円を支給し,同年度の法人税の確定申告における所得金額の計算において,右金64万円も役員報酬に当たるものとして損金の額に算入している。しかし,右金64万円は,後記3のとおり役員賞与に該当するので,法人税法35条1項により,損金への算入は認められない。

したがって,原告の昭和56年度の所得金額は,原告の確定申告に係る所得金額1万9,627円に右否認額64万円を加算した金65万9,627円である。

2  昭和57年度において,原告は,本件役員に対し,別表2記載のとおり,毎月,固定給店番及び売上手当等を支給するほか,8月・12月の盆・暮に夏季手当・年末手当合計金66万円を支給し,昭和57年度の法人税の確定申告における所得金額の計算において,右金66万円も役員報酬に当たるものとして損金の額に算入している。しかし,右金66万円は,後記3のとおり役員賞与に該当するので,法人税法35条1項により,損金への算入は認められない。

したがって,原告の昭和57年度の所得金額は,原告の確定申告に係る所得金額5万1,200円に,右否認額66万円を加算し,昭和56年度の更正の結果増加する法人事業税3万8,400円を控除した金67万2,800円である。

3  右1の金64万円及び右2の金66万円(以下「本件給与」という。)が役員賞与に該当する理由は,次のとおりである。

法人税法(以下「法」という。)においては,原則として,役員報酬は損金の額に算入されるが(34条1項参照),役員賞与は損金の額に算入されないものとしている(35条1項)。そして,役員報酬の意義について,法34条2項では,「報酬とは,役員に対する給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち,次条第4項に規定する賞与及び退職給与以外のものをいう。」と規定され,また,役員賞与の意義について,法35条4項において,「役員に対する臨時的な給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち,他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることになっているものを除く。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう。」と規定されている。これらの規定によれば,臨時的な給与は原則として報酬には当たらず,他に定期の給与を受けていない者に対する臨時的な給与だけがその例外として報酬になることが明らかである。

ところで,臨時的な給与の意義については,法に格別の規定はないが,法35条4項が「毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給される給与」も臨時的な給与に含まれうることを前提として,「他に定期の給与を受けていない者」に対し支給したものについてこれを臨時的な給与のうちから除外していること並びに社会通念によって考えれば,単に当該給与の支給時期又は支給額があらかじめ定められているか否かのみによって一律に決まるものではなく,その支給時期,支給回数及び支給の趣旨等を,年間のその他の給与の支給状況全体との関連において考察し,これによって当該給与が経常性のない一時的なものと認められるときは,右にいう臨時的な給与に当たるものと解すべきである。

これを本件についてみると,原告は,本件役員に対し,別表2記載のとおり,本件各年度において,毎月,固定給店番及び売上手当等おおむね一定額の給与を支給しているところ,8月・12月の盆・暮に本件給与を加算して支給しているものであるから,本件給与は,経常性のない一時的なものと認めるのが相当である。したがって,本件給与は,定期の給与を受けている者に対する臨時的な給与として賞与に該当し,報酬と解する余地はないものというべきである。

4  本件各年度における原告の所得金額は,以上のとおりであるから,本件各更正は適法であり,また,更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて,国税通則法65条4項に規定する正当な理由があるとは認められないから,同条一項の規定により過少申告加算税を賦課決定したことは適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  (認否)

(一) 被告の主張1及び2のうち,本件各年度において,原告が本件役員に対し,8月・12月の盆・暮に別表2の夏季手当・年末手当欄記載のとおり,本件給与を支給し,右各年度の法人税の確定申告における所得金額の計算において,本件給与を役員報酬に当たるものとして損金の額に算入したことを認めるが,その余の主張は争う。

(二) 被告の主張3のうち,その主張のとおりの法の規定の存すること,原告が本件役員に対し別表2記載のとおり各給与を支給していることは認めるが,その余の主張は争う。

(三) 被告の主義4は争う。

2  (反論)

(一) 原告は,別表3ないし別表7記載のとおり,昭和53年4月から昭和58年3月までの間本件役員に対し毎月10日を支給日として固定給店番その他の給与を支給しているほかは,毎年8月と12月に右給与の支給日に合わせて夏季手当・年末手当の名目で定額の給与(夏季・年末とも代表取締役,取締役には各金12万円ずつ,臨査役に対しては各金8万円)ただし,昭和57年度の監査役に対する年末手当は金10万円)を支給しているのみである。原告は,右のような給与支給方式をその設立(昭和34年)以来続けてきたものであって,本件給与もこのような給与支給方式に従って支給されたものであるから,支給時期,支給額があらかじめ定められた給与として「定期の給与」に該当するものというべきである。

(二) 法上,役員報酬は損金に算入されるのに対し,役員賞与が損金に算入されないのは,役員報酬が役員の職務執行の対価として支払われ,法人の事業遂行上必要な経費として考えられるのに対し,役員賞与は法人の利益処分として支給されるものだからである。そうすると,当該給与が報酬か賞与かを判定するに当たっては,単に定期的経常的な給与か臨時的な給与かという形式的基準のほかに,当該給与が業務執行の対価であるか否か,利益処分性が認められるか否かという対価性,報酬性の有無という実質的基準をも加えて判定すべきところ,原告は利益処分としての役員賞与を支給しうるような経営状態ではない。

五  原告の反論に対する被告の認否

1  原告の反論(1)は事実のうち,昭和56年4月1日から昭和58年3月31日までの原告の本件役員に対する給与手当が別表6及び別表7記載のとおりであることは認め,その余は不知。その余の主張は争う。

2  同(二)のうち,原告の経営状態については不知。その余の主張は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録・証人等目録記載のとおりであるから,これを引用する。

理由

一  請求原因1(本件処分の経緯等)の事実は,当事者間に争いがない。

二  そこで,本件各更正及び本件各決定に原告主張の違法が存するか否かについて判断する。

1  本件各年度において,原告が本件役員に対し,別表2記載のとおり,毎月固定給店番その他の給与を支給するほか,8月・12月の盆・暮に本件給与を支給し,本件各年度の法人税の確定申告における所得金額の計算において,本件給与も役員報酬に当たるものとして損金の額に算入したことは,当事者間に争いがない。

2  ところで,被告は,本件給与が損金に算入されない役員賞与に該当すると主張するので,以下この点について判断する。

(一)  一般に,役員報酬は,役員の通常の業務執行の対価であって,事業経営上の経費から支給されるのに対し,役員賞与は,利益獲得の功労に対する報賞であって,利益金の一部から与えられるものである。したがって,法人所得の計算上,役員報酬は,法34条1項により,原則として損金の額に算入されるが,役員賞与は,法35条1項で,損金の額に算入されないものとしている。そして,法34条2項において,「報酬とは,役員に対する給与(債物の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち,次条第4項に規定する賞与及び退職金給与以外のものをいう。」と規定され,法35条4項では,役員賞与の意義について,「役員……に対する臨時的な給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち,他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなっているものを除く。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう。」と規定されている。これらの規定によれば,役員に対する給与は,「定期の給与」と「臨時的な給与」に区分され,「定期の給与」が報酬であり,「臨時的な給与」は賞与(ただし,他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるものを除く。)と退職給与に区分されることになる。以上によれば,右の「臨時的な給与」に当たるものが法にいう役員報酬として認められないことは明らかである。このように,法は,専ら「臨時的な給与」であるか否かという給与の支給形態ないし外形を基準として報酬と賞与とを区別しているのであって,当該給与が業務執行の対価かあるいは利益処分かという給与支給の実質には着目していない。これは,現実に役員に支給される給与が業務執行の対価であるか否かを他から判別することは実際上必ずしも容易ではなく,同族法人にあっては,利益処分として支給すべきものを安易に報酬化して租税回避を企てたり,取締役会の専断で会社利益の先取りをするおそれがあるので,法が税務執行の便宜と租税負担の公平を図る見地から専ら給与の支給形態ないし外形を基準として報酬と賞与とを判別することとしたものと解される。したがって,法人がその役員に支給する給与が報酬か賞与かを判定するに当たり,右の形式的基準のほかに,原告主張のように,その業務執行対価性や利益処分性の有無という実質的基準をも加味して,それを役員報酬と認める余地はないものというべきである。

そして,右にいう「臨時的な給与」の意義については,法に格別の規定はないが,次のように解するのが相当である。すなわち,法35条4項が,毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給される給与も「臨時的な給与」に含まれうることを前提として,他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給される給与を「臨時的な給与」のうちから除外していること並びに社会通念によって考えれば,法35条4項にいう「臨時的な給与」に当たるか否かは,単に当該給与の支給時期又は支給額があらかじめ定められているか否かのみによって一律に決まるものではなく,その支給時期や支給回数,支給の趣旨等を,年間その他の給与の支給状況全体との関連において考察し,これによって当該給与が経常性のない一時的なものと認められるときは,「臨時的な給与」に当たると解するのが相当である。

(二)  これを本件についてみる。

本件各年度における原告の本件役員に対する給与・手当の支給状況が別表6及び別表7のとおりであることは,当事者間に争いがなく,原告代表者本人尋問の結果及びこれによって真正に成立したものと認められる甲第1ないし第3号証の各1,2によると,昭和53年4月1日から昭和56年3月31日まで(昭和53年度ないし昭和55年度)の原告の本件役員に対する給与・手当の支給状況は,別表3ないし別表5記載のとおりであることが認められる。そうすると,原告は,本件役員に対し,昭和53年度ないし昭和55年度及び本件各年度において,毎月固定給店番及び売上手当等おおむね一定額の給与を支給しているところ,8月・12月の盆・暮に夏季手当・年末手当を加算して支給していることが明らかである。ところで,原告代表者本人尋問の結果によると,夏季手当・年末手当は,わが国の社会一般のボーナス支給時期に手当の支給を欲する各役員からの要望に応じて支給されてきたものであることが認められる。

右認定の本件給与の支給実態を,わが国における一般的な給与慣行及び社会通念に照らしてみると,右加算支給された本件給与を含む夏季手当・年末手当は,その支給時期,年間の支給回数及び支給の趣旨等からみて経常性を有するものとはいい難く,特段の反証がない限り,前記の「臨時的な給与」に該当するものと認めざるをえない。しかるに,格別の反証はない。

(三)  以上のとおりであるから,本件給与は,法35条4項に定める臨時的な給与に当たるというべきところ,「他に定期の給与を受けていない者」に対して支給されたものではなく,また退職給与でもないことは,弁論の全趣旨に徴し明らかであるから,役員賞与というほかはない。

3  したがって,被告が,本件給与を役員賞与と認定して損金算入を否認したことは相当であって,本件各更正に原告主張のように所得金を過大に認定した違法は存しない。更に,本件各更正を前提とする本件決定についても,更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて,国税通則法65条4項に規定する正当な理由があると認めるに足る事情は存しないから,同条1項の規定により被告が過少申告加算税を賦課決定したことは適法である。それゆえ,本件各決定にも原告主張の違法は存しない。

三  結論

よって,原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邊貢 裁判官 水島和男 裁判官 小田幸生)

<以下省略>

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